藝連合シンポジウム「昭和40年代の日本における藝術の転換」提案趣意書

藝連合シンポジウム「昭和40年代の日本における藝術の転換」提案趣意書

 今話題の「団塊の世代」が青春を過ごしたのが、昭和40年代(1965-74年)です。年長世代にとって思想形成期ともいうべきこの時期は、若手・中堅の研究者にとってはごく幼少の時期にあたるはずで、体験と学習のギャップが、断層のように存在しているかもしれません。いずれにせよ、この時期は戦後の日本における一大転換期にあたっており、その時期における藝術、また藝術に対する考え方が、21世紀の現在に強い影響を及ぼしていることは間違いないと思われます。
 周知のように、この10年間に団塊世代は、「昭和元禄」と呼ばれた高度経済成長が瓦解し、石油危機に巻き込まれるさまに立ち会いました。また、泥沼化するベトナム戦争へのプロテストから、若者の牽引する反体制的な文化が立ち上がるのを目の当たりにしました。新左翼の政治運動や大学紛争の過激化と行き詰まり、あるいは、今は昔の巨人「V9」を、なつかしく回顧される方もあることでしょう。時代の中央に位置する「EXPO’70」がいくつかの藝術にとっての祭典として機能したのも、大きな出来事でした。何かが消滅し、何かが滅ぼされた。代わって何かが台頭し、何かが始まった−−それが、昭和40年代です。
 佐野光司ら、日本音楽学会の主要メンバーは、2007年に『日本戦後音楽史』全2巻を、10年にわたる共同研究の成果として上梓しました。この著作では、音楽にとっての昭和40年代を、ひとつはカウンター・カルチャーの興隆による原点回帰・様式混淆の時代、もうひとつは、脱西欧と日本化、主体的発信の始まりの時期としてとらえています。西洋の前衛の影響をようやく咀嚼し、作曲家の関心が日本的なものと向かい合ったこの時期に、歴史に残る作品が待ちかねたように生み出され始めたことは、『日本戦後音楽史』が具体的に指摘している通りです。
 こうした状況、こうした問題意識が諸藝術において共通であるのか、あるいは藝術によって時代のずれや独自の現象がどのような形で、どの程度あるのか、あるとすればそれらを通じてどのような時代像を構築すべきか、また、諸藝術の交流はどのように行われ、どのような成果を生み出したのか−−。こうした問題は、諸藝術の専門家による討議にこそふさわしいものと考え、藝術関連学会連合のシンポジウム案として提案し、委員会において採択されました。各学会におかれましては、パネリストの推薦、ならびに、テーマの内容や議論の方向に関するご助言を賜りますよう、お願いします。候補が多岐にわたった場合、選択のご相談をさせていただく可能性もありますので、その点もお含みください。

2008年2月12日
提題者 礒山 雅(日本音楽学会)