2024年度活動の報告 情報デザイン研究部会
情報デザイン研究部会(Info-D)は「情報デザインがユーザーの問題を解決する方法である」という硬直した思考をあらためて問い直し、顔の見える人びとと共にデザインする実践を続けてきた。一連の活動が2つに展開したのが2024年である。1つは環世界というスコープを用いた実践のアーカイブ化であり、17名の執筆者による論考をによる特集号を刊行した。これは第71回春季研究発表大会のTS、OSとも連続している。もう1つはオンラインセッションを再開し「ジェネラティ部」として、研究者による一人称研究と産業界における実践を相対化しながら新たな知の生成を目指す試みである。以下に具体的な活動を報告する。なお2024年度より主査が安武伸朗(常葉大学)、副査が大草真弓(成安造形大学)に交代した。部会員94名(2024年5月1日現在)である。
・第71回春季研究発表大会の活動
2024年度の研究発表大会(九州産業大学)では、TS1【デザインのアフォーダンスを問い直す】18件、TS2【デザインの実践者が見ている環世界】13件、計31件を数えた。「環世界は身体と環境との相互作用に向けられた、より内的な視点であるのに対して、アフォーダンスはそれを形作る主体として能動的な行為の視点」(横溝・札幌市立大学)であり、2つのテーマが表裏一体となることでデザイン活動をリデザインする論点がより明らかになったと考える。両セッションともに座長、副座長1名ずつ、計2名で運営することで発表をメタ視点で捉えることを試みた。発表後に20分のディスカッションタイムを設け、複数の登壇者たちの気づきを串刺しにする論点を提供しつつ、参加者とともに議論を豊かに展開している。
また6月22日(金)OPEN SIGを開催し、中島氏(女子美術大学)を中心にセッションに関するリアルタイムドキュメンテーションのあり方を協議した。記述者が主観的に受け止めた印象を中心に記録しセッション会場に次々に掲示することで、デザインの知を深める議論を誰でもが参照できる記録として振り返る試みであり、登壇者と参加者、記述者の理解が会場内で編まれてさらに新たな問いを生みだすといった、「わからない」ことを豊かな手応えと捉える、研究部会の姿勢の現れといえる。
特集号「環世界のまんなかでデザインする」vol32-1 111号の編集と発行
デザイン学のもうひとつの可能性を探究する「オルタナティ部」の活動を基盤として2023年よりナラティブ編集室を立ち上げた。編集長を宮田義郎(中京大学)が務め、17名による一連の実践研究の論考を特集号として2025年5月に刊行した。本研究部会が20余年にわたるさまざまな社会実践から獲得した態度を「世界を私と切り離して見る科学的眼差しではなく、〈いま・ここ〉を生きる世界の主体として、自己と環境の相互的な関わりをわかろうとする『環世界』という眼差し」(横溝)に収斂させ、一人称でデザイン知の可能性を捉えたナラティブが収録された。また編集の過程では各々の記述を語り合うことで論点がメタ化され、さらに知が構造化される工程の特殊性も新たな研究の種となりつつある。
巻頭言:環世界のまんなかでデザインする(横溝賢)
誰もがデザインする社会をめざして(原田泰)
デザイン教育者の環世界(富田誠/上平崇仁/福田大年)
リフレクションが拓くデザイン実践の意味(瀧知惠美/小早川真衣子/須永剛司)
道具を作る環世界とその意味(宮田義郎)
現場のナラティヴと社会システムを往還する共創実践者の環世界(木村篤信)
情報デザインと環境倫理に橋を架ける(二宮咲子/吉永明弘)
ビジネス世界と生活世界を往還する若手デザイナーの環世界(海野真梨菜/木下菜穂)
微生物との共生から生まれる流動的な世界の見方(荒石磨季/宮田義郎/ラスクガブリエル/横溝 賢)
構成的行為としての環世界のデザイン(中島秀之)
Info-Dの〈デザイン環世界〉を描く(中島郁子)
問いや知性を育むオンラインの場の再開 ジェネラティ部vol.1
11月29日(金)オンライン
ヘルスケア・コミュニティの領域において地域社会でサービス事業を進める中野優氏(阪急阪神ホールディングス株式会社)が活動を紹介し、生活世界と事業構想のあわいについて参加者と対話を行った。同社はシニアと市民、自治体という多様な関係者を対象とするとともに、認知症予防とコミュニティづくりという社会課題や自社の小売事業や移動事業の活性化という産業の視点を包括的に捉える実践を進めている。いわばミクロの問題とビジネスを繋げる同社の姿勢や、自治体の態度について問いを交わした。